会社法特例の株主のイラスト

一般的に、株主名簿に記載はあるものの会社が連絡を取れなくなっており、所在が不明になっている株主を「所在不明株主」といいます。中小企業においては株主数が少なく、それぞれの株主の保有する議決権割合が多い傾向にあり、この所在不明株主が事業承継の妨げになることがあります。

会社法においては、所在不明株主に対して強制的に保有株式の買取などを認める制度がありますが、所定の手続きに長い期間を要すなどハードルが高いものとなっておりました。これらの問題を解決しやすくしたのが、「所在不明株主に関する会社法の特例」となります。

所在不明株主に関する会社法の特例

会社法では、株式会社は、所在不明株主に対して行う通知等が5年以上継続して到達せず、当該所在不明株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しない場合、その保有株式の競売または売却(自社による買取を含む)が可能となっています。

会社法の特例は、この「5年」を「1年」に短縮する措置となります。ただし、非上場の中小企業のうち、事業承継ニーズの高い株式会社を対象として、都道府県知事の認定を受けることと、一定の手続きが前提となります。

手続きの例:株式会社が所在不明株主から非上場株式を買い取る場合

会社法の特例の手続き例

-経営承継円滑化法 申請マニュアル 会社法の特例より抜粋-

※会社法上の異議申述手続き(会社法第198条第1項)の前に、会社法特例における異議申述手続きとして、官報等による公告及び各所在不明株主等に対する個別の催告を行う必要があります。

※裁判所における手続きでは、対象となる株式が「市場価格のない株式」にあたりますので、その買取価格の相当性を疎明する必要があり、公認会計士や税理士などによる「株価鑑定書」が必要となります。

会社法特例の認定を受けるための要件

会社法特例を利用するためには、非上場の中小企業者である株式会社が以下の2つの要件をそれぞれ満たし、都道府県知事の認定を受ける必要があります。

1.経営困難要件

申請者の代表者が年齢、健康状態、その他の事業により、継続的かつ安定的に経営を行うことが困難であり、会社の事業活動の継続に支障をきたしていること

例えば、下記のような場合です。

◆ 代表者の「年齢」が満60歳を超えている場合

◆ 代表者の「健康状態」が日常業務に支障をきたしている場合

◆「その他の事情」が認められる場合

  • 代表者以外の役員や幹部従業員の病気や事故など
  • 外部環境の急激な変化などによる突然の業績悪化等

2.円滑承継困難要件

①認定申請日時点において株式会社事業承継者が定まっている場合

一部株主の所在が不明であることにより、その経営を当該代表者以外のもの(株式会社事業後継者)に円滑に承継させることが困難であること

所在不明株主の保有株式の議決権割合

(A)株式譲渡の手法:1/10超かつ「1-要求される割合」超

(B)株主総会特別決議に基づく手法:1/3超

②認定申請日時点において株式会社事業後継者が未定の場合

所在不明株主の保有株式の議決権割合

(C)原則:1/3超

(D)例外:1/10超かつ特例適用分が経営株主等※1と加算して9/10以上

※1 代表者または代表者であった者ならびにそれらの親族(6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族)

認定申請時の添付書類

認定申請書には以下の添付書類が必要となります。

①認定申請書の写し

  • 実際に提出する認定申請書のコピー

②申請者の登記事項証明書

  • 認定申請日の前3 月以内に作成されたもの

③申請者の定款の写し

  • 認定申請日におけるもの(原本証明付き)

④申請者の株主名簿の写し

  • 認定申請日におけるもの(原本証明付き)

⑤申請者の契約書

  • 申請者が上場会社等に該当しない旨

⑥その他参考となる書類

  • 事案ごとに異なります。詳しくは、中小企業庁の経営承継円滑化法 会社法の特例申請マニュアルをご覧ください。

 

経営承継円滑化法における会社法の特例に関しては、前提となる要件を満たす企業にとっては、必要となる期間が5年から1年に短縮される、ありがたい支援策となります。

広島において、事業承継および経営革新に関するご相談は、さいきコンサルティングまでお気軽にご相談ください。

4回にわたって、経営承継円滑化法の支援策についてご説明してきましたが、次回は、まとめとして、申請にあたって気をつけること、どのような企業が申請したらいいのかなど、お伝えいたします。

それでは、また。