経営を引き継ぐ際に後継者が学ぶこと

みなさん、こんにちは。

以前に後継者の育成について取り上げましたが、この際に確認したのは「経営者として身につけていくスキルな何なのか?」ということでした。本日は先代経営者から後継者が経営を引き継ぐ際に学ぶべき内容についてポイントを絞り確認していきます。この引き継ぎで学ぶことは、経営を行ううえで重要なことであり、それは先代経営者から直接学ぶべきものでもあります。これについては、第三者への承継は比較的スムーズに進む場合が多いのですが、親族内承継の場合は間柄が近しいという関係性もあり、素直に言葉で直接伝えずらいということも散見されます。経営を行う上で非常に重要なことですので、そういうことを含め、計画的に進めることが必要です。

後継者が学ぶべき項目

学ぶ項目のイメージ画像

後継者が経営を引き継ぐ際に学び理解する項目は下記の通りです。

  • 企業理念やビジョン・価値観・組織風土の理解する
  • 組織と人材を理解する
  • 顧客を理解する
  • 競合相手などを理解する
  • 儲けの仕組みを理解する
  • 管理の手法を理解する
  • 金融機関の対応方法を理解する

経営者としてのスキルを習得することは一般論や原理原則などの理論となりますが、今回学ぶことに関しては、いずれも自社の経営を行う上で大事なことであり、実務における引継ぎといえます。

それでは、それぞれの項目を確認していきましょう。

企業理念やビジョン・価値観・組織風土の理解する

企業理念・ビジョンなどのイメージ画像

経営理念と聞くと建前じゃないの、そんなの掲げているだけでお飾りにすぎないなと、お題目的に考える経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、経営がうまくいっている会社ほど、この経営理念を単なるお飾りではなく、経営の土台として大事にして、社員に浸透させています。

この経営理念は、経営者の想いであり、それが価値観となり、行動基準となります。さらには顧客に対する付加価値につながります。そして、それがひいては企業の組織文化・組織風土にもなります。結果的に経営戦略やマーケティング戦略などの戦略も一貫性のあるものになり、成果につながっていくものです。先代経営者の想いをしっかりと引き継いでいくことが大切です。

歴史を学び引き継ぐ

この経営理念は長い歴史の中から育まれたものです。創業の時の想い、社長や従業員が大切にしてきたこと、会社を継続させるうえで、追い続けてきたもの、苦労してきたこと、嬉しかったこと、失敗したことなどから生まれてきたものであり、それが現在の理念、価値観、文化、風土につながっています。過去から現在までの歴史を振り返ることで、経営理念の根幹を理解しましょう。

存在の理由

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長い歴史の中で企業が存続しているには必ず理由があるはずです。お客様に必要とされているその理由・本質を理解し、それを引き継ぐことが重要です。先代経営者や経営幹部、従業員との対話の中で、見えているものはもちろん、見えていないものまで深掘りしていき、文字に明文化していき、その存在理由を引き継いでいきます。

後継者の作る経営理念・ビジョン・行動指針

行動指針のイメージ画像

後継者が経営を引き継いだ後に一番最初に取り組むべき課題が、後継者が作る経営理念・ビジョン・行動指針です。

別に引き継いだものを変えるということではありません。引き継いだ経営理念・ビジョン・行動指針は、時間が経っていることもあり、後継者の時代にあったものに合わせていき、後継者の言葉でリニューアルしていくということです。

それはひいては後継者が描く経営ビジョンに向けて従業員が考える際の判断基準にもつながります。残すべきもの、時代に合わせて変えるもの、後継者が考える言葉に置き換え、それを文字に明文化して、社内に浸透させていきます。

最近話題のパーパス経営

パーパスのイメージ画像

私が以前いたソニーでもこのパーパス経営を行っていました。企業が目指す方向性を明確にすることで、従業員の中で一体感を生みやすく、的確でスピーディな意思決定も行いやすく、従業員のモチベーションも高まり、自主性や主体性も高くなります。さらに最近はESG経営が叫ばれるなか、消費者の共感を呼び、支持を増やし、引いてはファンを作ることにもつながります。

パーパスとは「企業がなぜ存在するのか(なぜWhy)」(存在意義)ことですが、似た言葉に、ビジョン、ミッション、バリューがあります。それぞれの意味は、ビジョンは「企業が目指す未来像」、ミッションは「企業が果たす使命」、バリューは「企業の価値観や行動指針」となります。概念的には、パーパス>ビジョン>ミッション>バリューとなり、パーパスを目的(Why)として、結果としての企業の未来像(Where)を設定し、それを実現するためにミッション(What)があり、その手段(How)としてバリューがあると捉えたら分かりやすいと考えます。

これらの概念を使い、後継者が今の時代にあった、パーパス、ビジョン、ミッション、ビジョンを作り上げていきましょう。

組織と人材を理解する

組織図と人材のイメージ画像

先代経営者は、社長としての豊富な知識、ノウハウ、カリスマ性など持ち合わせていますが、これは自分の成長と組織や人材の成長が同時に進行するなかで培ってきたものです。後継者が経営を引き継ぎ、同じことがすぐにできることはありません。

組織を運営するうえでは、それぞれが果たす役割などを明確にしておき、その役割を組織やメンバーが果たしていけるように運営していくのがスムーズな事業承継につながります。

組織のあり方の明文化

組織の役割を学ぶイメージ画像

会社の理念やビジョンの目的を達成させるため、組織がどうあるべきなのかを理解し学んでいきます。各部署が果たす役割や責任者などが担う役割を明確にしていきます。これらを明文化することにより、先代経営者の人間力によるマネジメントから、組織を合理的に率いていくマネジメントに変えていきます。

これらの役割の明文化については、今後の人事評価の基準にもなりますので、先代経営者と対話の中で明確にしていき、作成していきます。

人材の見える化

人材の見える化のイメージ画像

人材の見える化をしていき、後継者が引き継いだあとの人事戦略につながるように整備をしていきます。

先代経営者と後継者の対話により従業員台帳を作成し、マンパワーを把握します。これにより人材の空洞化をさけ、必要な人材の採用計画、現人材の育成計画、後継者のパートナー人材の把握・育成または採用、ベテラン人材の処遇などを検討します。また古参社員など現経営者の引退とともに辞めさせる社員の峻別を行い、先代社長とともに退職させるのがいいのかなども検討します。

これらの環境整備を行うことは後継者がスムーズに経営を行っていくには必要なステップですので、確実に行いましょう。

顧客を理解する

顧客のイメージ画像

先代経営者から顧客の引き継ぎを行います。BtoBとBtoCで違う面はありますが、個々の顧客を十分に理解していきます。

一般的な手法としては顧客をABCで分類して分析します。単に売上金額での評価だけでなく、粗利額・粗利率、一般消費者であれば購入頻度などで分けて評価して確認していきます。それぞれの取引を始める経緯やこれまでの取引状況、顧客ニーズ、キーマンや注意する点などを確認していきます。

これらの取引状況や先方の経営状況などから総合的に判断し、優良顧客・維持顧客・問題顧客など選別し、今後の取り組みなどを先代経営者と話していき、今後の営業戦略に活かしていきます。

競合相手などを理解する

競合を理解するイメージ画像

現在の環境を分析します。これにはファイブフォース(5つの競争要因)というフレームワークを活用して確認していくのが一般的な方法です。

①業界同業者間競争(競合メーカーの状況)、②売り手の交渉力(仕入先)、③買い手の交渉力(販売先)、④代替品の脅威(代わりとなる商品)、⑤新規参入の脅威(業界内に参入する他社)、この5つの項目でチェックしていきます。

これらを整理することで、自社の立ち位置を確認して、今後に向けた経営・営業戦略に活かしていきます。

儲けの仕組みの理解する

ビジネスモデルを学ぶイメージ画像

いわゆるビジネスモデルの分析ですが、自社がどのように付加価値を生み出しているのかを分析します。これには市場における商流の確認(サプライチェーン内)と会社内部における業務の流れの2つで確認します。

先代経営者との対話により、どこの部分に強みと弱みがあるのかを理解します。今後においては、経営理念や競合相手の理解などをもとに、強みをさらに強化するのか、弱みを改善するのか、それとも他のところで強みを作るのか、今後の戦略に活かしていきます。

管理の手法を理解する

管理手法のイメージ画像

経営を進めるうえでは、目標・実績の管理をしていき、PDCAサイクルを回して活動は基本中の基本です。

これらを進めるにあたり、自社特有の着眼点があります。これに関しては、長年自社を経営してきた先代経営者にノウハウがありますので、それらのポイントを学んで理解しましょう。

会計による経営の管理

経営者として決算書による経営の管理をしていくのは言うまでもありませんが、経営の結果である決算書の分析だけでは十分とは言えません。経営計画を立て、計画通りに進んでいるかどうかを適宜チェックしていくのが経営者として重要な行動です。

試算表などを毎月見ていき計画と実績の差異を確認し、計画通り進んでいるのか、どこが問題なのか、修正アクションが必要なのか検討し、必要なら対策をしていく、などを行い、当初の計画通りに達成させていく活動が大切です。先代経営者と一緒になって、管理会計におけるそれらの手法について実戦で学んで理解していきましょう。

重要指標の活用

最近はポピュラーで当たり前となった言葉にKPIというのがあります。Key Performance Indicatorの略で日本語では重要業績評価指標といいます。経営数値目標を達成するために何の指標を追いかけたら一番効果的なのかを示す指標です。それぞれの業界や会社によってバロメーターがあり違うのが現状です。

何を追いかけると経営目標を達成することができるのか? 例えば、売上公式の客数×客単価×リピート率で分析すると、リピート率が業績にいちばん影響するので、それを日頃から見るようにする、さらに分析すると、リピート率は、Aという商品が影響するので、A商品のリピート率がどうなっているのかを追いかける、というように追いかける数字を決めていきます。

大事なのは、その数値を選んだ理由、目標はどうなのか、その目標を達成させるための活動はどうするのか、などの考え方を共有することです。それらを共有することで会社にとって必要なものは何かが明確になり、次に活かせるようになります。

金融機関の対応の方法を理解する

金融機関の対応を学ぶイメージ画像

経営を安定して進めていくには金融機関との取り組みが欠かせません。金融機関との日頃からの情報交換の手法などを先代経営者から後継者に引き継ぎます。

具体的には、自社の経営ビジョンや経営戦略の説明、年次の経営計画の説明、月次決算の状況説明、新商品や新サービスなど自社における情報提供など、コミュニケーションを行います。

良いときはもちろん悪いときこそ早く説明に行く姿勢が評価されます。これらの行動を先代経営者と後継者が一緒になってすることで、後継者の金融機関に対するアレルギーを少なくすることができ、敷居が低くなります。

本日のまとめ

本日は経営を引き継ぐ際に理解し学ぶべきことについて確認をしました。一般的には経営スキルなどを学んだあとに、実務の引き継ぎとして行いますが、これらの引き継ぎも、ある程度時間をかけて実施していく必要があります。より早く進めていくことが後継者にとってスムーズな事業承継につながります。まだまだ事業承継は先でいいと考えず、やることをリストアップしていき、かかる時間を考えてみてはいかがでしょうか。

さいきコンサルティングでは、事業承継に関わるサポートを伴走型で行います。

広島における事業承継に関わるご相談は、お気軽にさいきコンサルティングまでお問合せください。

次回は、「事業価値を高める経営レポート」を確認していきます。

それでは、また。

この記事を書いた人
佐伯 隆
中小企業診断士/事業承継士
ソニーの国内販売会社に38年間勤め、営業・マーケティング・マネジメントに携わる。量販本部担当を12年するほか、ソニーショップの経営支援などを行う。2021年より「さいきコンサルティング」を開業。

さいきコンサルティングでは、事業承継に関わるご提案および解決に向けて伴走型で支援をしていきますが、弁護士、税理士などの独占業務など、業法に抵触する職務をすることはありません。