本日も経営者保証の解除について確認していきます。
経営者保証の解除に関する取り組みを振り返ると、2014年2月に「経営者保証に関するガイドライン」が適用開始となり、2020年4月に事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドラインの特則」が公表され、2022年3月には廃業時における「経営者保証に関するガイドライン」の基本的な考え方が公表されています。そして、昨年12月23日に経済産業省、金融病、財務省による連携の下に「経営者保証改革プログラム」が策定され発表されました。
経営者保証に依存しない融資が増えてきているものの、まだ不十分ということで、さらに加速させるための施策といえ、本気度が伝わってくるプログラムだといえるでしょう。
本日は、「経営者保証改革プログラム」について確認していきます。
経営者保証改革プログラムとは?
経営者保証に依存しない融資を更に促進させるための施策として、
- スタートアップ・創業
- 民間融資
- 信用保証付き融資
- 中小企業のガバナンス
以上の4分野に分けて、重点的に取り組む施策が策定されています。
それでは、一つひとつ具体的に見ていきましょう。
1.スタートアップ・創業
創業時の融資において起業家が経営者保証を提供せずに資金調達が可能となるように、経営者保証を徴求しないスタートアップ ・ 創業融資の促進策が策定されています。
具体策として、
- 経営者保証を徴求しない新しい信用保証制度の創設(23年月相談受付開始予定)
- 日本公庫等において経営者保証を求めない制度の要件緩和(23年2月~)
- 商工中金のスタートアップ向け融資における経営者保証の原則廃止(22年10月~)
- 民間金融機関に対する経営者保証を徴求しないスタートアップ向け融資促進の要請
以上の4つの項目を進めていくことが示されており、スタートアップ ・ 創業融資時に経営者保証を求めない資金調達を目指しています。
2.民間金融機関による融資
監督指針の改正が行われ、保証を徴求する際の手続きが厳格化されています。これにより安易な個人保証に依存した融資が抑制されることを目指しています。また「経営者保証ガイドラインの浸透・定着に向けた取組方針」の作成と公表が要請されており、金融機関自体の意識改革が求められています。
具体的な項目として3つに分けて施策が実施されます。
(1)金融機関が個人保証を徴求する手続きに対する監督強化
金融機関が個人保証契約を締結する際には、必要性について、事業者・保証人に対して個別具体的に説明することが求められ、その結果等を記録すること、結果を記録した件数を金融庁に報告することになっています。また、金融庁には経営者保証専用相談窓口が設置され、状況に応じては、金融機関に対して特別ヒアリングが実施されます。
(2)経営者保証に依存しない新たな融資慣行の確立に向けた意識改革
「経営者保証ガイドラインの浸透・定着に向けた取組方針」の作成・公表を経営トップを交えて検討・作成することが要請されています。また、これらの周知徹底のために全国で説明会が実施されます。さらに成功事例の横展開も実施されるようです。
(3)経営者保証に依存しない新たな融資手法の検討(事業成長担保権(仮))
不動産担保や経営者保証に過度に依存しない、事業全体を担保とする融資の実現に向けて、制度の早期実現が検討されていくようです。
3.信用保証付き融資
経営者保証ガイドラインの要件(①法人・個人の資産分離、②財務基盤の強化、③経営の透明性確保)を充たしていれば経営者保証が解除される現在の取組をさらに徹底すること、その上で、経営者保証ガイドラインの要件のすべてが充たされていなくても、経営者保証の機能を代替する手法により(保証料の上乗せ、流動資産担保)、経営者保証の解除を事業者が選択できる制度を創設されます。
(1)信用保証制度における経営者保証の提供を事業者が選択できる環境の整備
- 保証料の上乗せ負担で経営者保証の解除が選択できる信用保証制度の創設(24年4月~)※1
- 流動資産(売掛債権、棚卸資産)を担保とする融資(ABL)に対する信用保証制度において経営者保証の徴求を廃止(24年4月~)
- プロパー融資の一部の借換えを例外的に認める保証制度(プロパー借換保証)の時限的創設※2
※1 経営者の取り組みにより達成可能な要件(法人・個人の資産分離、経営の透明性確保)が必要
※2 プロパー融資における経営者保証の解除等を条件
(2)経営者保証ガイドラインの要件を充足する場合の経営者保証解除の徹底
信用保証付き融資を行う場合、経営者保証を解除することができる現行制度の活用を検討するように金融機関に要請する、保証付き融資が原則として経営者保証が必要でないことの徹底を行うこと
4.中小企業のガバナンス
経営者保証解除の前提となるガバナンスに関して、中小企業経営者と支援機関の目線合わせが図られるように、支援機関向けの実務指針の策定や中小企業活性化協議会の機能強化が行なわれており、官民による支援態勢が構築されていきます。
コロナ資金繰り支援
新たな資金需要に対応する借り換え保証制度が創設されています。
コロナ借換保証
民間ゼロゼロ融資からの借り換えに加え、事業再構築等の前向き投資に必要な、新たな資金需要に対応する借り換え保証制度(100%保証の融資が100%保証で借り換え)の運用が開始されています(2023年1月10日~)。
日本政策金融公庫によるスーパー低利融資
債務負担が重い事業者(債務償還年数が13年以上)であれば、売上減少要件を満たさなくても融資対象となるよう、要件が緩和されています。
本制度は2023年2月1日から運用が開始される予定です。
※債務償還年数=有利子負債÷営業CF=(有利子負債-現預金)÷(税引後利益+減価償却)
本日のまとめ
本日は経営者保証改革プログラムについて確認をしました。これらの施策が金融機関においてどの程度実現されていくのかという不透明な部分があるものの、今までの取り組みに加えプラスの施策ということは、国の気合が十分だといえ、期待できるのではないかと思います。これらの施策をうまく活用していくことで経営者保証の解除を進めていけたらと考えます。ただし、必要な要件が緩和されるとはいえ、要件が全くないわけではありません。まずは、事業承継に向けての課題を見える化して、早期に取り組むことが、解決に向けての近道となるのは変わりません。
さいきコンサルティングでは事業承継に向けて総合的に伴走型で支援を行います。
広島における事業承継に関わるご相談は、お気軽にさいきコンサルティングまでお問い合わせください。
次回は、令和5年度税制改正大綱について確認していきます。
それでは、また。
- この記事を書いた人
- 中小企業診断士/事業承継士
- ソニーの国内販売会社に38年間勤め、営業・マーケティング・マネジメントに携わる。量販本部担当を12年するほか、ソニーショップの経営支援などを行う。2021年より「さいきコンサルティング」を開業。
さいきコンサルティングでは、事業承継に関わるご提案および解決に向けて伴走型で支援をしていきますが、弁護士、税理士などの独占業務など、業法に抵触する職務をすることはありません。