事業承継の基本(イメージ画像)

前回は、事業承継のはじめの第一歩としてお伝えし、事業承継については早期に取り組むことが円滑な事業承継の近道であり、まず手をつけることから始めましょうということで、14の質問をお伝えしました。

本日は、この14の質問を関連する項目でまとめ、それらを「事業承継の基本の基本」としてご説明いたします。

事業承継をするタイミング

事業承継をするタイミングのイメージ画像

前回の質問では①、②で経営者の年齢と後継者の年齢についてお聞きしました。また、質問の⑭では事業承継する日をお聞きしました。

前回の記事でもお伝えしましたが、一般的にはバリバリ働けるビジネスタイムは40年~50年と言われており、これを年齢に置き換えると、65歳が目安となります。

ここから逆算して、現経営者の賞味期限としての残された年数、および後継者の方が担うことができる年数を確認します。

現経営者の賞味期限と後継者の経営年数の数式

この数式の計算では、現経営者の残された経営の年数と後継者が経営を担える年数が確認できます。この結果は、あくまでも一つの目安ですが、引退の時期を決める一つの指標となります。

事業承継のスタートは、この引退時期を決めることから始まります。それは後継者にバトンタッチする時期が決まらないと、後継者の育成や取引先・銀行・従業員などの対策、さらに株式移転、相続問題、納税対策などの具体策を考えにくくなります。

また、後継者もいつバトンを渡されるか分からないと「心の準備」ができなくなったり、場合によってはやる気が失せてしまい、自覚が醸成されないということにも繋がりかねません。

現経営者のご自身のことだけではなく、後継者、ひいては現経営者が育てた会社のことを第一に考えて、勇退するタイミングを決めることが大事になります。ご自身に引導を渡せるのはご自身しかおりません。「まだ自分はやれる」という思いから、「このタイミングで引き継ぐのが最適だ」とお考えいただくのが円滑な事業承継への近道です。

もちろん納税や相続のお金の問題から必要となる期間から、その通りにならない場合も出てきますが、まずは引退する時期を考えてみましょう。

自社株の引き継ぎ

自社株式のイメージ画像

前回の質問の③、④、⑤で株式の質問をさせていただきました。

後継者が会社を経営するために必要な事業用資産は、法人が所有している場合がほとんどで、多くの場合は自社株式を譲渡することにより後継者に引き継ぐことが可能です。

後継者が安定して経営をしていくためには、特別決議を議決できる発行株式総数の2/3以上の自社株式を後継者に移転するのが理想です。この2/3以上がないと定款の変更など、円滑な運営を行うことが困難になります。

ただし、自社株式の移転を行うには贈与税、相続税、買い取り資金などが必要となります。また後継者に相続資産を集中させることにもなり、他の相続人との均衡化を図るための対策も必要となるなど、注意が必要となります。

自社株式を移転する際にかかるお金

また自社株の株価が高い場合は株価引き下げなどの対策が必要となります。
さらに自社株が分散している場合は株式の買取など総合的な対策が必要となります。

このような資本計画や株価対策、分散した株式の対策などは難しい問題となりますので、専門的な知見から提案のできる、お近くの事業承継士などにご相談いただくのが良いと思います。

株価の算定について

自社株がいくらになるのかという株価算定をされている中小企業の経営者の方はあまり多くないのではないでしょうか。

さいきコンサルティングでは、あくまでも簡易株価算定となりますが、株価の概算を出すことを始めとした事業承継診断が可能ですので、お気軽にご相談ください。

※税金の支払いなどには使えません。その場合は税理士や公認会計士による算定が必要です。

勇退後の計画=ハッピーリタイア

ハッピーリタイアの計画のイメージ画像

前回の質問の⑦、⑧で役員退職金についてお聞きしました。勇退後に必要な資金を見積もります。
まず、勇退後のイメージを思い描くことから考えていきましょう。

仕事から離れて自由になったときに、何をやりたいのかを考え、計画してみて、その計画に必要となるお金がいくらくらいになるのかを検討します。有り余る時間をどのように使うのか事前に考えることで、経営者を退くという決断も前向きに捉えられるようになるかもしれません。

勇退後の計画

勇退後の計画にはどのようなものがあるのでしょうか?
一般的に考えられる項目をあげてみました。
これ以外にもたくさんあるでしょうから、何も書いていない紙にペンで書き出してみましょう。

◆趣味・趣向
・クルマ/バイク
・スポーツ(ゴルフ・テニス)
・釣り
・楽器

◆長期旅行
・日本一周
・海外旅行
・南の島

◆家族・親戚との充実した時間
・子や孫との時間(家族旅行・誕生日会などイベント)
・教育費などの支援
・ご夫婦の時間(共通の趣味・旅行など)

◆生き甲斐・やり甲斐
・学びなおし(大学・研究)
・社会貢献(ボランティア・寄付)
・地域コミュニティとの関り(町内会・趣味のサークル)

老後の資金計画

2019年に金融庁が発表した報告書によると、老後の生活には年金に加え1世帯2000万円が必要とされました。ではこの金額で「豊かな老後」を送ることができるのでしょうか。前節で計画していただいた勇退後の「夢のある生活」を実現するには、さらに上乗せが必要となるのではないでしょうか。

これらを実現するための資金計画を考えていきましょう。

役員退職金

老後資金には、会社から支払われる役員退職金で賄う場合が多いと思われます。
あらかじめしっかりと準備をしておく必要があります。

前回の質問の⑦、⑧では、現経営者が希望する役員退職金と別に社長が退任する際に一緒に辞めてもらう役員の役員退職金もお聞きしました。後継者が安定して経営ができるように、古参の役員がいらっしゃったら、この役員の分まで含めて計画していくのがハッピーリタイアのポイントです。

役員退職金の支給には、役員退職慰労金規程の制定が必要となります。さらにそれを株主総会で決議する必要があります。支給の事前準備としてはこの点に注意する必要がありますが、実際の支給に関しては原資となる資金が必要となりますので、事前の資金計画が必要となります。健全な支給の一つとしては内部留保から支給することが考えられますが、十分に内部留保がある企業は少ないのではないでしょうか。保険の活用など、総合的な対策が必要となりますので、専門的な知識を有している事業承継士の出番となります。

役員退職金の支払いメリット

役員退職金は、支給のタイミング次第では会社や経営者のキャッシュフローを大きく改善させる効果もありますので、そのメリットを確認しましょう。

1.役員退職金は多くの場合、全額を損金で経費化することができる

2.繰越欠損金として税務上の損失を10年にわたり繰り越せる

3.株価が下がるので、そのタイミングで後継者に株式を一気に移転できる

4.保険解約返戻金にピークに支給すれば効果が絶大になる

5.所得税の計算上、優遇措置がある(退職所得控除・分離課税・1/2課税)

※詳しくは別途ご説明する機会を設けます。

相続(争族)対策

遺産相続のタイトル画像

前回の質問の⑫では反対する相続人ために用意するお金の質問をさせていただきました。

事業承継では、相続財産に占める自社株式の割合が高くなるケースが多く、後継者に安心して経営してもらうために優先的に相続させてしまうと、他の法定相続人の遺留分を侵害するケースが出てきます。その場合、他の法定相続人が遺留分侵害請求をすることで、後継者が他の法定相続人へ自社株式の代わりに支払うための資金が必要となります(代償交付金)。

これは相続財産が自社株式以外にあまり多くないケースに発生する割合が高くなります。また「兄弟は仲が良いから、そんな必要はない」という声もありますが、お嫁さん、お婿さんなど、血のつながっていない家族が増えることで、身内から足をすくわれるケースは多々あります。

事前にこれらの資金計画を立てておく必要が円滑な相続につながります。

家族会議

相続人で、「どのように遺産を分けたらそれぞれが納得するのか」を事前に考えて調整することが後々の争いを避ける対策となります。そして、それを家族全員が出席する家族会議を開催して、生前に現経営者である社長=父親から、財産の持つ意味、役割分担、家族それぞれへの想いなどを伝えることが円滑な相続につながります。またこれら決まったことは遺言にして残しておくことが争族対策となります。

納税資金

事業承継対策で問題となるのは、後継者に自社株式等を集中させた場合、後継者が払う納税資金が不足する可能性がありますので、これを事前に考え、対策を講じておく必要があります。

※相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に、原則として現金による一括払いとなっています。

経営革新

経営状況・課題の「見える化」と「磨き上げ」

経営革新のイメージ画像

前回の質問の⑨では、事業承継を行う前の設備投資や人材獲得にかかるコストをお聞きしました。

現在のビジネスモデルを再点検し、他社と比べた強み・弱みを把握し、自社の付加価値の源泉を探り、事業の将来性を考え、今後必要となる課題を抽出した上で改めて戦略を立案していきます。それを実践するうえでの設備投資や必要な人材獲得や人材育成などにかかる費用を考えた投資を行います(磨き上げ)。

現経営者の下で投資を進めていくのか、経営者交代に伴い実施していくのか、経営方針および経営計画を立てて、事業承継計画に反映して実行していきます。

後継者の育成計画

後継者育成計画のイメージ画像

前回の質問の⑥では、後継者または後継者候補の方の教育計画および予算をお聞きしました。
スムーズな事業承継を実現するには、後継者の方の経営能力の習得は必要条件となりますので必要なコストを惜しまず掛けていきましょう。

後継者の育成にあたっては、社内での教育と社外での教育の2つがあります。

社内では一般的に各部署をローテーションし会社業務を経験させ必要な知識を修得させます。その上で責任のある地位に就け、重要な意思決定やリーダーシップを発揮する機会を設け、経営に対する自覚を身につけさせます。更に経営者の指導により、経営理念を引き継ぎ、経営上のノウハウを習得します。

社外では、他社での勤務を経験することで、人脈の形成や違う経営手法の習得、社外から自社を見ることにより広い視野で客観的に自社を見る目を養います。また社外でのセミナー等に参加して経営者として必要な知識の習得や幅広い視野の形成を図ります。

事業承継センター後継者塾

社外セミナーでは、事業承継センターで提供している後継者塾をお勧めします。

この後継者塾は、11年で1,010名の後継者を送り出しており、事業承継を専門にしている事業承継センターならではのノウハウで、決断できる後継者を作り上げます。

この後継者塾のポイントは下記の3点です。

1.自社の会社を徹底的に知る
経営のセオリーを学んだ上で、自社を徹底的に分析します。

2.経営に必要な思考力を身につける
自社と異なる業種のモデルケースからものごとの本質を見出し、自社に当てはめる訓練をするなど。

3.塾生同士の交流を促し、一生高め合う仲間ができる
異なる考えを持つ他者に自分の意見を効果的に伝え、議論を通じて1つの結論を導き出すトレーニングをします。同じ悩みを持つ後継者、経営者として、気軽に相談できる仲間ができます。

詳しくは、こちらをご覧ください⇒事業承継センターの後継者塾

事業承継士へのご相談

事業承継士のロゴ

最後になりますが、前回の質問の⑩、⑪では、個人名義の不動産や経営者が個人で会社に貸し付けているお金についてお聞きしました。また質問⑬では、事業承継士などへの報酬についてお聞きしました。

後継者の方が経営をやりやすくする環境整備として、現経営者が個人所有している土地を会社名義に変えたり、個人で会社に対して貸し付けをしているお金の処理(放置すると相続財産となります)など、円滑な事業承継には細々とした必要な対策があります。これらを点検して事前に対策を講じておくには事業承継を専門に行う専門家の力が必要です。

手前味噌になりますが、事業承継士はこれらを専門的に扱っておりご提案できる力を有しています。これらにかかる費用をぜひご検討ください。

さいきコンサルティングでは、事業承継を伴走型で3年程度で行えるようにコンサルしていきます。

最後に

いかがでしたでしょうか?

本日は、「事業承継の基本の基本」ということでご説明しました。
繰り返しになりますが、事業承継を円滑に進めるには、これらの課題に対して総合的で幅広い知見から対策を行う必要があります。これらの提案ができる専門家として事業承継士が適任ではないかと思います。お近くの事業承継士にお気軽にご相談ください。

広島での事業承継および経営革新に関するご相談は、さいきコンサルティングまでお願いします。

次回は、事業承継を進める具体的なステップをご紹介します。

それでは、また。