自社株分散の問題のイメージ画像

前回まで事業承継を進める5つのステップとして、経営状況・経営課題の把握(見える化)として、ローカルベンチマーク、事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)として、経営力向上計画経営革新計画について、その中身を確認してきました。

今回より、事業承継に関わる具体的な問題の一つひとつを取り上げ、掘り下げをしてみたいと思います。これらに関しては、事業承継に向けたの必要性の認識のステップでは、事業承継診断として、具体的な解決策の立案後では、事業承継計画へとつながっていきます。

最初に、自社株式ついて考えていきます。

自社株について、最初に現社長さんが考えられることは、後継者にできるだけ株式を渡して、安定的に経営ができるということだと思います。では、自社株が分散するとどのような問題が発生するのでしょうか?

本日は、自社株が分散することによる問題と対策について考えてみます。

株主の権利について

株式の権利のイメージ画像

まず、株主の権利について確認していきましょう。

会社の設立あるいは増資時に、出資者(=投資家)がお金を会社に出資してそれと引き換えに会社が株式を発行し出資者は株主となります。株主になると得られる権利にはどのようなものがあるのでしょうか。株主には2つの権利があり、ひとつは会社から経済的な利益を受けとる権利である自益権、もう一つは会社の経営に参加できる権利である共益権があります。

それぞれ具体的に見ていきましょう。

自益権

会社から経済的な利益を受けとる権利である自益権として、主には、会社の利益に対して配当金を受け取ることができる権利である利益配当請求権があげられます。これ以外には、残余財産分配請求権、名義書換請求権、株式買取請求権などがあります。

共益権

会社の経営に参加できる権利である共益権ですが、主には、株主総会に参加し決議に参加する権利である議決権があげられます。これ以外に、株主総会の議題・議案の要綱を提案する権利である株主提案権、株主総会で決めたい事項がある場合に、株主総会の開催を会社に求める権利である株主総会招集権をはじめ、株主総会決議取消権、取締役等解任請求権、会計帳簿閲覧権、取締役等の違法行為差止請求権、新株発行差止請求権、株主代表訴訟提起権などがあります。共益権は保有する株式シェアにより行使できる権利が違います。

議決権保有割合と主な株主の権利

共益権について、株式を保有する割合で実行できる株主の権利が異なります。

保有割合 主な権利
100% 自分の意志で決定することができる
66.7%

(2/3以上)

株主総会の特別決議ができる。

取締役の解任、定款変更、合併や解散、など、

会社経営に関する重要な事柄を単独で可決できる。

50.1%

(1/2超)

株主総会の普通決議ができる。

役員の選任、役員報酬の決定、剰余金の配当などの
会社経営に関する主な事柄を単独で可決できる。

33.4%

(1/3以上)

特別決議を単独で阻止することができる
25.1%

(1/4以上)

相互保有株式の議決権停止
10.1%

(1/10以上)

解散請求権
3%

(3/100以上)

株主総会の招集、役員の解任請求権、会計帳簿閲覧請求権、

業務財産検査役選任請求権などができる

1%以上 or 300個以上

(1/100以上)

総会検査役選任請求権、株主提案権などができる
1株以上 議事録閲覧権、株主代表訴訟提起件などができる

2/3以上保有すれば、営業全部譲渡、定款変更、減資、合併、任期中の役員の解任など、経営に関わる重要な決議をほぼすべてすることができます。これにより、経営者が考える経営が安定して行えるということになります。

したがって、経営者は自分あるいは自分の身内と合わせて、2/3以上を確保しておくようにすべきです。そして、なるべくなら自分単独で2/3以上が望ましいです。身内で意見が割れ、結託してクーデターを起こされるケースもあります。

また、安心して経営を行うために、余計な心配ごとや手間を取られないよう、少数株主の権利が行える権利にも注意して、できるだけ後継者に株式を集中させておきたいところです。

自社株式が分散するリスク

株式が分散するリスクのイメージ画像

資本金が小さい会社の株式が自由に売買されてしまうと、少ない元手でも会社を乗っ取られる可能性が出てきますので、安心して経営に集中することができなくなります。

中小企業の場合、一般的には、株式譲渡制限会社(すべての株式に譲渡の制限をつけている会社)ではないかと思いますが、この制限をしておいても株式の所有権が変わってしまう場合があります。

それが相続です。

事業承継では、後継者に経営権を集中させることが重要であり、経営者が保有する自社株の承継はもちろん、経営者以外の株主が保有する自社株への対応も必要となります。

現経営者の自社株について

相続発生により、後継者以外の相続人へ自社株が分散するのを防止します。

現経営者の自社株が後継者に確実に取得できるよう生前贈与などを含めた対策を計画的に進めるのが効果的です。これには、遺留分侵害など遺産分割上の問題を事前に考慮し、総合的に行う必要があります。

そのためには、相続人同士で不公平が発生しないように、後継者から他の相続人へ必要な水準の現金を渡すことで、問題の解決を図る代償分割の活用が有効です。それには相続発生のタイミングで後継者が活用可能な現金を確保できることがポイントになります。さらに、相続する財産が自社株に集中する場合、後継者にとっては納税資金の準備についても事前に検討する必要があります。

現経営者以外が保有する自社株について

相続の発生による自社株の分散は現経営者以外に、非同族の役員や名義株主でも発生します。後継者と関係性のない、面識のない人に自社株がわたる可能性が出てきます。そのまま保有しているだけならいいのですが、突然、株式を買い取ってほしい、会社のことが分からないのに経営に口を出してくる、などのトラブルに巻き込まれないように、事前に防止措置を取っておく必要があります。

自社株分散の対応策について

自社株分散の対応策のイメージ画像

自社株が分散してしまうと安定した経営ができなくなる恐れがありますので、相続における対策が必要となります。

自社株の分散リスクに対する対応策について、現経営者の自社株対策と現経営者以外が保有する自社株について、それぞれ考えてみます。

現経営者の自社株を後継者に集中させる対策について

後継者に自社株を集中させ、他の相続人が納得できる遺留分対策について、どのような方法があるのでしょうか。これには、次のような方法が考えられます。

①自社株式などの事業用資産以外の財産を遺留分の相当額分を移転する。
②経営承継円滑化法の特例を利用する
③生命保険を活用するなどして価格弁償の準備をする

①については、自社株以外の相続財産(現預金など)が相当程度あることが前提となります。

②については、経営承継円滑化法の特例を利用する場合、民法の特例を活用することで、遺留分侵害の対策としては有効ですが、他の相続人の不公平感はなくなりませんので、別途資金を用意する必要が残ります。相続人が納得できる方法を考え、家族会議などで事前に了解を取るのがベストです。

③については、実務的に活用されるケースが多いです。ただし、不足する遺留分侵害金額や会社の財務状況および収益状況や活用する保険についてなど、専門的な知識が必要となります。

現経営者以外が保有する自社株の対応について

所定の手続き(定款の中に”相続時の売渡請求権)を盛り込む等)をすることにより、「相続によって取得した自社株」を株式発行会社が強制的に買い取ることが可能になります(金庫株の活用)。

ただし、自分の父親が先に亡くなってしまった場合にその株式を相続できなくなるなど、注意が必要です。これに関する対応策などについては、次回にご紹介したいと思います。

まとめ

事業承継においては、後継者が安心して経営を進めていくうえで、自社株が分散しないようにすることは一番優先順位の高い項目となります。現金が豊富にあれば相続対策を含め問題はありませんが、そのような中小企業は少ないのではないでしょうか。多くの企業が相続財産は自社株に集中しており、現金が少ない場合が多いと思われます。このような場合、早めの対応が必要です。

後継者に自社株を集中させて相続させる場合、後継者以外の相続人それぞれが納得できる遺留分侵害相当分にあたる遺産相続が最終的に問題となります。これらの対応は家族会議の実施まで含めた総合的な支援が必要になります。

さいきコンサルティングでは、現状の問題を踏まえた総合的なご提案を実施し、伴走型で事業承継をサポートいたします。また、金庫株の活用でご説明した定款の見直しなどの細かいサービスも顧問契約の中に入れており、円滑な事業承継を実現していきます。

広島における事業承継のご相談は、さいきコンサルティングまでにお気軽にご相談ください。

次回は、金庫株についてもう少し詳しくご説明するとともに、残りの自社株に関する対策について触れていきたいと思います。

それでは、また。

この記事を書いた人
佐伯 隆
中小企業診断士/事業承継士
ソニーの国内販売会社に38年間勤め、営業・マーケティング・マネジメントに携わる。量販本部担当を12年するほか、ソニーショップの経営支援などを行う。2021年より「さいきコンサルティング」を開業。